【その10】野外料理とカブ弁の味

カブ弁

梅干の入りのおむすびが
「カブ弁」の主役かつ唯一のキャスト

 戸外で活動する楽しみの一つに食事があります。険しい道を登り切ったあと、パッと眺望の開けた山の上でのランチタイムでは、普段小食な現代っ子でも、旺盛な食欲を見せてくれるものです。

 さて、カブ年代以上のランチの代表的なメニューといえば「カブ弁」です。地方によっては「スカ弁(=スカウト弁当)」というところもあるようですが、本団では創立期から「カブ弁」で通っています。この「カブ弁」、シンプル・イズ・ベストを絵に描いたようなメニューで、「梅干の入ったおむすび」主役かつ唯一のキャストです。他に一切のおかずは付随しないのが「本式」とされます。

 そして、飲み物は「水」。清涼飲料水でないことは勿論のこと、緑茶・麦茶ですらないところがツウです。
「梅干」は野外で携行する米飯の腐敗を防ぐため、「水」は万一の怪我をしたときに傷口を洗い流すことにも使えるため、などと説明されても、「育ち盛りの子供が、せっかく楽しく食べるのだから……」と、少々のおかずを加えたり、梅干の代わりにほぐしたシャケなぞ入れたくなるのが親心。寒い冬の活動では水筒に暖かいお茶を持たせたくなるのが人情ですが、ここは一考が必要です。

 スカウトの活動は、カブからボーイ、ベンチャーへと進む中で、徐々に本格的な野外活動へと移行して行きます。ボーイのレベルでも、主要な食事は「野外料理」として自炊することが多くなります。活動で疲れた体にとっては、何ら豪華なおかずやデザートがなくとも、飯ごうで炊いた「ごはん」のおいしさと、シンプルな味噌汁の温かさに心も体も満たされます。(もちろんおかずも作ります。毎回「ご飯」と「味噌汁」だけではないので誤解のないように……)

 「野外料理」は、スカウトたちの大きな楽しみの一つですが、普段の訓練を怠っていると、即座に結果が「黒こげ」や「生焼け」となって我が身に降りかかります。また、天候などの条件によっては、「時間内に食事にありつけない!」などというハプニングも起こり得る、「自活」を前提としたタタカイでもあります。スカウトは「野外料理」を通して、「食べる」という、現代日本の日常生活では「当たり前」となっている行為本来の「大切さ」や「難しさ」を体験から学びます。「カブ弁」はこのことを見据えた、「食」にかかわる体験の入り口でもあるのです。

 ボーイ隊の夏のキャンプは通常4泊5日ですが、期間中の食事のほとんどが自炊=「野外料理」となります。唯一、自宅から持参出来る「完成した食べ物」が、初日の昼食に充てる「カブ弁」です。何回も野営を経験している先輩スカウトでも、内心は間違いなく「あぁ、これが最後の文明的な食事か!!」と感慨にふけりながら、「梅干のおむすび」を頬張ります。他におかずが何にもなくても、一緒に飲むのが「ただの水」であっても、それは頑張るスカウトを応援する「家庭の味」「おかあさんの味」そのものであり、他に代え難い「ご馳走」なのです。

 「たかがカブ弁・されどカブ弁」!! 「飽食の時代」にあって「梅干のおむすび」のおいしさを知るスカウトは、とても幸せだと思うのですがいかがでしょうか。

(GL:たいま)

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