【その11】「電話連絡」のはなし

 「カブ連」=「カブ隊の電話連絡」の略ですが、カブスカウトになると集会の連絡は、スカウト同士が組単位で決められた連絡網に沿って伝達するようになります。ボーイ隊ならば「ボーイ連」が班長から順々に回って行きます。

 私がまだカブスカウトだった頃、「カブ連」では毎回毎回「集会用具」の中身まで伝達されていました。「ロープ、ナイフ、カブブック、歌集、雨具……」。今から思うと、一々復唱している内にスカウト自身が「集会用具」を覚えてしまうという、なかなか効果的な「指導方法」であったと思います。

 ボーイ隊に上進すると、一転して“謎めいた”連絡が増えました。持ち物の細かい伝達は省略され、キャンプの時でさえ「持ち物……3泊4日の個人装備一式!」となります。上進したばかりのスカウトは面食うわけです。もちろん「個人装備一式」の内容は班長から教えてもらいました。

 また、厳しいと評判だった鎌倉エリア各団合同の「班長候補訓練」に参加が決まった時のことです。訓練は2泊3日間の予定でしたが、回ってきた連絡では「活動場所、“鎌倉及びその周辺”」とだけ伝えられました。連絡を受けて「そうか、3日間“鎌倉市内”でキャンプするんだ!」と、勝手に安心したわけですが、イザ集合してみると「指令書」が配られ、そこには「これから電車に乗って東海道線の国府津駅で御殿場線に乗り換え……」と記されています。結局、その日の野営地は丹沢湖から山中湖に抜ける峠の手前でした。以来、「鎌倉及びその周辺」というアバウトな「活動場所の想定」は私のお気に入りとなり、ボーイ隊長の頃にはさんざん流用させてもらいました。

 当然、リーダーの手元にある活動計画書には、その活動の目的・目標に始まり、タイムスケジュール・ゲームや訓練の展開方法・リーダー間での役務分担・危険予知・悪天候の際の代替プログラム等まで詳細に記されています。それでも、スカウトには集合・解散は別として、活動の内容や時間割・目標地点などは、あえて伏せたままの連絡が回ることが多いはずです。

 スカウト活動は少年たちにとっては「楽しいゲーム」であり「冒険」です。どこに行くのか、何をするのか、「行ってみなけりゃわからない!!」という、スカウトたちのドキドキ・ワクワクを「演出」するのもリーダーのテクニックです。

 現在、各隊の「活動計画書」は全てスカウトへの「連絡」を行う前に、ネット環境でリーダー同士がチェックし合い、団委員長が承認する仕組みになっています。承認後のプログラムはさらに、団委員のみなさんにも開示され、数段階のチェックを経て、必要最小限の情報のみが「連絡網」でスカウトに流れます。

 特に遠方に行く場合などは、別に「保護者連絡」が回ることがあります。しかし、その内容は、スカウトたちには原則「マル秘」です。結末の見えているゲームでは、少年期の「冒険心」を満たすことは出来ません。受話器片手にメモをとりつつ、「ドキドキ」している彼らのうしろ姿をそっと見守ってあげましょう。

 スカウトたちにプログラムへの「ドキドキ」を与えて来た「電話連絡」を、今回は「情報化社会」という視点から考えてみたいと思います。まず、部門ごとにスカウトたちの「情報処理成績」を評価してみましょう。私の評価は、カブ=合格ボーイ=追試ベンチャー=落第、という結果になります。

 ボーイ年代は、連絡がすべてのメンバーに行き渡るまでの「伝達速度」で大きく減点です。一見するとその原因は、スカウトたちの在宅率の低さにあるように思えます。スカウト連絡は原則として各自宅の固定電話間で行われますから、情報の送り手と受け手の双方が共に在宅であることが前提です。折悪しく受け手側が不在の場合は、一つ先の受け手に「飛ばし」で連絡しますが、これまた不在というケースもままあります。在宅率が低い理由は別に夜遊びしているというわけではなく、クラブ活動・塾や習い事が原因と思われます。

 しかし、塾や習い事が盛んになったのは、何も最近のことではありません。スカウトたちの「忙しさ」を差し引いたとしても、わずか5~6名のメンバー間で「数日」を要している現状の「伝達速度」に、よい点数はつけられません。私は、スカウトがそれぞれ「忙しい」という事情がある割には、平均的に何をするにも「腰が重く」なったように感じています。電話を受けたら“すぐ”回す。不在の間に連絡があったことを知ったら“すぐ”かけ直す。この「すぐ」という意識が少々低いのではないでしょうか。

 高校生であるベンチャー年代になると、さらに評価は悪くなります。メンバーが皆、離れた地域の学校に通い、行動圏が格段に広くなることもありますが、私はこの年代の「中途半端な情報化」が原因とにらんでいます。ベンチャー年代では、現在「携帯メール」が主要な情報伝達手段となっています。電子メールの利点は情報収受の時間帯を選ばないことにあり、多少生活の時間帯がズレていたとしても、最終的にはメンバーが正確な情報を共有できるはずです。しかし、現実はボーイ年代までの「電話連絡」にも及ばない、「低速」且つ「低精度」の情報伝達となっています。

 「中途半端な情報化」とは、ボーイ年代同様に「すぐ」という意識を欠いたままで、ツールだけが進化していることを指します。メールでも「着信」に気づいた時点で「すぐ」にレス(返信)を打つという習慣が身に着いていません。さらに、情報の送り手も、相手からの反応があろうが無かろうが、そのまま放置する傾向が顕著です(まあ、彼女からのメールでは違う反応をするのでしょうが……)。何よりも深刻なのは、内容いかんに関わらずすべてをメールで済ませようとする姿勢であり、この傾向は残念ながらローバー年代でも余り改善されません。結果として、年長部門に進むほど「情報処理成績」は惨憺たる評価となるわけです。

 「情報化社会」とは、本来、人間同士のより確実で円滑な「意思疎通」を目指すものでしょう。その意味で、スカウトの「肉声」による「電話連絡」は、IT化が進展すればするほど、「社会性」を育むために必須の“スキルトレーニング”として、より重視されるべきであると考えています。

(GL:たいま)

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