【その13】ナイフのはなし

フォールディングナイフ

フォールディングナイフ

 スカウト活動に欠かせない道具のひとつにナイフがあります。例えば野外で火を起こして料理をしようとすれば、薪にする木の枝を火が点きやすいように細く裂いたり、湿った皮をむくことから始まり、食材の加工・調理、でき上がったおかずの切り分けなど、ナイフの出番は数多くあります。そのほかにも、キャンプサイト(=テントを中心としたキャンプの住空間)の設営作業や、食糧確保のための魚釣りで、はたまた記念品の工作でと、ナイフは野外活動必須のツールとして大活躍します。

 スカウトが最初にナイフを与えられるのはカブスカウトの時です。ポピュラーなものは、「肥後守」(刃を薄い鉄製の柄の中に折りたたむことの出来る昔ながらのポケットナイフ)かその後継種で、カブ年代が好む工作などの手作業に適したものです。この時期にスカウトたちは刃物の正しい使い方を体で覚えます。

 ボーイスカウトに上進すると、ナイフの使い道は主に野外活動での実用に移ります。刃渡り(※)も多少長く、折りたたみの柄の部分もしっかりと握れるようなもの(フォールディングナイフ=折りたたみナイフ)が便利です。さらに、本格的な野外活動では、時に包丁の代わりになり、あるいは太いロープや小枝も楽に切断できるような、刃渡りが長く、握り手部分もしっかりできた、刃を鞘(さや)に収める形のやや大型のナイフ(シースナイフ=鞘付ナイフ)が重宝します。ただ、この形のナイフになると、誤った使用による危険度も大幅に増すので、以前の本団では、大型ナイフの携行を初級スカウトには認めず、また、誤用や悪戯目的の使用などが発覚すれば、即没収という厳しい罰則の慣例がありました。ボーイ年代でスカウトたちは刃物の使用技能を磨くとともに、より高度な道具を所持・使用するための心構えと秩序を学びます。

 ナイフのほかに缶切や栓抜き、ドライバーやハサミなどを折りたたんで収納できる「アーミーナイフ」と呼ばれる(スイス陸軍の制式ナイフに由来する)ものも人気がありますが、単独のナイフの使い勝手では少々難があり、本当にその機能のすべてが必要とされることは、ベンチャーの移動キャンプでもまずありません。

 刃の材質はハイステンレス鋼製のものが錆びにくく、手入れも楽ですが、「砥ぎ」など手入れの基本的な方法をマスターするにはスチール製のものが適しています。「切れない刃物ほど危ないものはない」といいますが、これはよく手入れされた刃であれば無理な力を要せずスムースにこなせる作業も、錆付いた刃物では余計な力が入り、思わぬ事故に繋がることを指します。スカウトは、刃物の使い方とともに、その正しい手入れ方法をまずマスターしなければなりません。

 十数年前に、「バタフライナイフ」が一種のファッションとして人気を博し、少年犯罪などで悪用される事態が多発したとき、世論の大勢は「理由のいかんを問わず、少年にナイフなど持たせるべきでない」という論調に染まりました。しかし、当時の橋本総理大臣は、自分自身が少年時代にボーイスカウトであった体験を披瀝しながら、「むしろ、刃物を“正しく”使うことができるよう少年を指導・教育するべきだ」と公の席で説かれ、スカウターの一人として大変心強く感じたことをよく覚えています。

 自分と周囲の安全に責任を持ち、正しい手入れと使用の技能をマスターしたものだけがその利便を享受できるのは、刃物だけでなく野外活動における「道具」に共通した条件です。野外を教場とするスカウトにとってナイフとは、与えられた信頼と責任、そして自ら体得した技能を象徴する特別なツールなのです。

※法令で無条件に携帯を許されているのはシースナイフで刃渡り6センチ以下、フォールディングナイフで8センチ以下のもの。それ以上は業務上やその他正当な理由がなければ携帯できない。刃渡り15センチ以上になると「刀剣類」の扱いとなり、許可証がなければ所持できない。

(GL:たいま)

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